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最後の女友達

 私は大学4年生の夏から、当時のデニーズアークヒルズ店でアルバイトを開始することにした。学生時代は新宿のパチスロ店に出入りしてほとんど勉強はしていなかったのだが、就職先が決まり、バイトの面接に行ったところ採用してくれるとのことだったので、木・金・土の週3日、デニーズアークヒルズ店で皿洗いのアルバイトをすることになった。

 私がデニーズアークヒルズ店でアルバイトを開始したときは、まだ日本経済のバブルがはじける前で、アルバイトはみんな大学生ばかりだった。普通、アルバイトといえば、高校生などもいるのだが、当時の店長の方針でアルバイトは基本的に大学生という形をとっていたのだ。

 デニーズでアルバイトをしていると、基本的に食事が1食無料で取ることが出来た。私はお客様のいるホール担当ではなかったので、注文を受けつけるPOSを持っていなかった。なので、食事を頼むときは他のアルバイトの人に頼まなければいけなかった。デニーズでアルバイトを開始してから、いろいろなことをアルバイトの仲間に教わっていたのだが、ある日、アルバイトのシフトに入り、ひらきさんというアルバイトの女性に食事を頼んで皿洗いをしていた。

 ひらきさんに食事を頼んでから、黙々と皿洗いをしていたのだが、一向に食事が出てこない。そこで、エンプロイルームを覗いてみると、何とひらきさんが先に休憩に入って食事をとっていたのだ。そこで、ひらきさんに自分の食事はどうなったのか聞いてみると、頼むのを忘れていたと言って、急いで食事を注文してくれた。その後、私の食事が出来、ひらきさんは自分のバイトのシフトが終了する前、フロントにある使用済みのお皿を全部私のところに持ってきてくれた。

 このことがきっかけとなって、私とひらきさんは仲良くなった。ひらきさんは私より年下で、松戸に住んでいることや、将来は学校の先生になりたいということなどを知った。私がひらきさんと一緒にアルバイトをしていて、嬉しかったのは、エンプロイルームで休憩をとっている時、みんなの前でひらきさんが、「私、鈴木くんのこと好きだよ。」と言ってくれたことだった。学生時代、異性にほとんど縁がなかった私にとって、この一言は本当に嬉しかった。

 その後、バイト仲間が冬休みに私とひらきさんを含めたスキー旅行を計画してくれたのだが、私は学校の卒業と就職を控えていて、結局、スキー旅行はお流れとなってしまった。そうこうするうちに3月となってしまい、私とひらきさんはお別れとなってしまった。

 私自身、学生時代を振り返ってみて、もっと学校に行っていれば良かったと思うことがある。また、家庭教師などのつまらないアルバイトではなく、早くからデニーズで働いていれば良かったと思うこともある。いずれにせよ社会人となってから今まで、ひらきさんとは一度も会っていない。たぶん、ひらきさんも結婚して、素敵な家庭を築き上げているだろう。デニーズアークヒルズ店でのこのことは、私のほろ苦い想い出である。